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浦和地方裁判所 平成10年(行ウ)11号 判決 2000年10月16日

原告

亡乙訴訟承継人

原告

原告

原告

右原告ら訴訟代理人弁護士

小宮清

桝井信吾

小宮圭香

小沢剛司

原告甲及び原告丙訴訟代理人弁護士

今泉良隆

被告

上尾税務署長 水井隆治

右指定代理人

黒澤基弘

磯野宏

安部憲一

金谷滝夫

内田秀明

小野塚仁

田口勉

永塚光一

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が平成八年二月二八日付けでした己の平成四年分所得税の更正のうち納付すべき税額一二六七万八五〇〇円及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)を取り消す。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  己は、平成四年中に、同人が所有する別紙物件目録一記載の二筆の土地(以下「本件第一譲渡土地」という。)及び別紙物件目録二記載の二筆の土地(以下、「本件第二譲渡土地」といい、本件第一譲渡土地と本件第二譲渡土地を一括して、「本件譲渡土地」という。)と庚が所有する別紙物件目録三記載の八筆の土地(以下「本件第一取得土地」という。)及び辛が所有する別紙物件目録四記載の五筆の土地(以下、「本件第二取得土地」といい、本件第一取得土地と本件第二取得土地とを一括して、「本件取得土地」という。)を交換した取引(以下「本件交換取引」という。)は、所得税法(以下「法」という。)五八条一項(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)の規定に該当するとして、平成四年分の所得税について本件譲渡土地の譲渡に係る譲渡所得金額を〇円とする確定申告をした。

その後、己は、平成六年五月一四日に死亡し、己の妻である原告甲、己の子である同丙及び乙らが、己の国税の納付義務を承継し、さらに、乙が、平成一一年六月二八日に死亡したため、乙が承継した右義務を、乙の妻である同丙、乙の子である同丁及び同戊が承継した。

2  ところが、被告は、右確定申告に対し、平成八年二月二八日付けで、己の所得税につき、分離長期譲渡所有の金額七〇四五万六九一〇円、納付すべき税額二一一七万二五〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の額三一五万〇五〇〇円とする過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行い、右己の国税の納付義務につき、原告甲は、一〇五八万六二〇〇円、同丙及び乙は、それぞれ五二九万三一〇〇円を承継し、その旨を原告甲、同丙及び乙に通知した。

3  原告甲、同丙及び乙は、これに対し、平成八年四月二五日、被告に対し、本件更正処分の異議申立てをしたところ、被告は、同年七月二三日付けで本件更正処分及び本件賦課決定処分の一部を取り消し(分離長期譲渡所得の金額四二一四万三六八〇円、納付すべき税額一二六七万八六〇〇円、過少申告加算税一八七万五五〇〇円)、己の国税の納付義務につき、同甲は、六三三万九三〇〇円、同丙及び乙は、それぞれ三一六万九六〇〇円を承継する旨の異議決定をした。

4  さらに、原告甲、同丙及び乙は、本件異議決定を経た後の原処分を不服とし、乙を総代として選任し、平成八年八月二三日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、右所長は、平成一〇年一月二〇日付けで審査請求を棄却する裁決をし、その旨乙に通知した。裁決書謄本は平成一〇年二月三日、乙に送達された。

5  本件更正処分及び本件賦課決定処分(ただし、いずれも、異議決定により一部取り消された後のもの。)は、その内容に瑕疵があり、違法である。

6  よって、原告らは、被告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分(ただし、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの)の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1ないし3は、認める。

2  請求原因4のうち、裁決書謄本が、平成一〇年二月三日、乙に送達されたことは知らないが、その余の事実は、認める。

3  請求原因5の主張は、争う。

三  被告の主張

1  本件更正処分

(一) 総所得金額 一六三万七五四九円

右金額は、(1)の農業に係る事業所得(以下「農業所得」という。)の金額と(2)の雑所得の金額の合計である。

(1) 農業所得の金額 三三万一四〇〇円

(2) 雑所得の金額 一三〇万六一四九円

(二) 分離長期譲渡所得の金額 四二一四万三六八〇円

右金額は、次の(1)の金額から(2)及び(3)の金額を控除した額である。

(1) 収入金額 四五四一万四四〇〇円

右金額は、己が、その所有する本件譲渡土地をA株式会社に譲渡し、その対価として、Aから譲渡を受けた本件第一取得土地及び本件第二取得土地(本件取得土地)の一部の土地の時価(本件取得土地二三七二平方メートルから埼玉県北本市に寄付した五九八平方メートルを除いた一七七四平方メートルに一平方メートル当たり二万五六〇〇円を乗じたもの)である。

(2) 取得費 二二七万〇七二〇円

(3) 長期譲渡所得の特別控除額 一〇〇万円

(三) 所得控除 一二七万九九一〇円

右金額は、次の(1)ないし(5)の金額を合計した額である。

(1) 社会保険料控除 一四万三〇〇〇円

(2) 損害保険料控除 三〇〇〇円

(3) 配偶者控除 三五万円

(4) 医療費控除 四三万三七一〇円

(5) 基礎控除 三五万円

(四) 課税所得金額

(1) 課税総所得金額 三五万七〇〇〇円

右金額は、(一)の総所得金額から(三)の所得控除の金額を控除し、国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。

(2) 課税分離長期譲渡所得金額 四二一四万三〇〇〇円

右金額は、(二)の分離長期所得の金額から、通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた額である。

(五) 算出税額 一二六七万八六〇〇円

右金額は、次の(1)及び(2)の合計額である。

(1) 課税総所得に係る算出税額 三万五七〇〇円

右金額は、(四)(1)の課税総所得金額に、法八九条一項(ただし、平成六年法律一〇九号による改正前のもの)に規定する税率を適用して算出したものである。

(2) 課税分離長期譲渡所得に係る算出税額 一二六四万二九〇〇円

右金額は、(四)(2)の課税分離長期譲渡所得金額に、租税特別措置法(ただし、平成七年法律五五号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条を適用して算出したものである。

(六) 納付すべき税額 一二六七万八六〇〇円

右金額は、(五)の算出税額から、通則法一一九条一項により一〇〇円未満を切り捨てた額である。

(七) 右(六)の納付すべき金額は、本件更正処分における納付すべき税額と同額であり、原告甲、同丙及び乙は、通則法五条により、己の国税の納付義務を承継し、その額は、相続分の指定がない以上、法定相続分に従い、同甲は、六三三万九〇〇〇円、同丙及び乙は、各三一六万九六〇〇円(通則法一一九条により一〇〇円未満を切り捨てた額)ずつとなり、本件更正処分と同額であるから、本件更正処分は適法である。

2  過少申告加算税

原告甲、同丙及び乙は、通則法六五条一項により、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額一二六七万円(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の端数切り捨て)に、一〇〇分の一〇を乗じて算出した金額一二六万七〇〇〇円及び通則法六五条二項により、前記納付すべき税額からから五〇万円を引いた一二一七万円(ただし、通則法一一八条三項により一万円未満の端数切り捨て)に、一〇〇分の五を乗じて算出した金額六〇万八五〇〇円の合計一八七万五五〇〇円の過少申告加算税を課されることになるから、右金額は、本件賦課決定処分と同額であるから、本件賦課決定処分は、適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(一)の事実は、認める。

2  被告の主張1(二)については、本件譲渡土地と本件取得土地との交換(本件交換取引)につき、法五八条一項の適用がなく、本件取得土地の時価が一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、同条を適用して計算すべきであり、右適用がないとしても、譲渡所得収入金額は三・三平方メートル当たり七万円程度として計算するのが相当である。

3  被告の主張1(三)については、本件交換取引に法五八条一項が適用されないとすれば、被告主張のとおり、医療費控除額につき法七三条の適用があり、己が法二条一項三〇号に該当しないとして、老年者控除額が認められず、配偶者特別控除額につき法八三条の二第二項の適用により同条一項の適用がないこととなり、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、本件交換取引につき法五八条一項が適用されるべきであるから、医療費控除額につき法七三条を適用し、老年者控除額につき法二条一項三〇号に該当し、配偶者特別控除額につき法八三条の二第一項を適用して計算すべきである。

4  被告の主張1(四)(1)については、本件交換取引に法五八条一項の適用がされないとすれば、被告主張のとおり、医療費控除額につき法七三条の適用があり、己が法二条一項三〇号に該当しないとして、老年者控除額が認められず、配偶者特別控除額につき法八三条の二第二項の適用により同条一項の適用がないこととなり、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、本件交換取引につき法五八条一項が適用されるべきであるから、医療費控除額につき法七三条を適用し、老年者控除額につき、法二条一項三〇号に該当し、配偶者特別控除額につき、法八三条の二第一項を適用して計算すべきである。

5  被告の主張1(四)(2)については、本件交換取引につき、法五八条一項の適用がなく、本件取得土地の時価が一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、同条を適用して計算すべきであり、右適用がないとしても、譲渡所得収入金額は三・三平方メートル当たり七万円程度として計算するのが相当である。

6  被告の主張1(五)(1)については、本件交換取引に法五八条一項の適用がなければ、被告主張のとおり、医療費控除額につき法七三条の適用があり、己が法二条一項三〇号に該当しないとして、老年者控除額が認められず、配偶者特別控除額につき法八三条の二第二項の適用により同条一項の適用がないこととなり、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、本件交換取引につき法五八条一項が適用されるべきであるから、医療費控除額につき法七三条を適用し、老年者控除額につき、法二条一項三〇号に該当し、配偶者特別控除額につき、法八三条の二第一項を適用して計算すべきである。

7  被告の主張1(五)(2)については、本件交換取引につき、法五八条一項の適用がなく、本件取得土地の時価が一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるとすれば、被告主張のとおりの金額となることは認めるが、本件においては、同条を適用して計算すべきであり、右適用がないとしても、譲渡所得収入金額は三・三平方メートル当たり七万円程度として計算するのが相当である。

8  被告の主張1(六)及び(七)並びに同2は、争う。

五  原告らの主張

1  法五八条一項の適用について

本件交換取引は、以下の理由により、法五八条一項の要件に該当し、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(以下「本件交換特例」という。)の適用が認められるべきであるから、己の平成四年度の所得税は、〇円である。

(一) 本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれも土地であることから、同種の固定資産である。

(二) 本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれもそれぞれの所有者が一年以上所有していた固定資産である。

(三) 原告らは、本件取得土地を本件譲渡土地の譲渡直前の用途と同一の用途(田畑)に供している。

(四) 本件交換取引において、交換差金は収受していない。

(五) 本件交換取引の相手は、庚及び辛であり、己とこれら両名との間で本件譲渡土地と本件取得土地とを交換している。

(六) Aは、工場兼事務所用地として本件譲渡土地を含む土地の買収計画を、仲介人をB株式会社として、進め、本件譲渡土地については、原告の所有する本件譲渡土地と庚及び辛がそれぞれ所有する本件取得土地とを交換し(本件交換取引)、Aが庚及び辛から本件譲渡土地を買い取る計画であったが、右計画が早期に実現するためには、本件譲渡土地は、農地であるから、農地法五条の許可を早く得ることが必要であるところ、新地主からの右許可申請はすぐに受け付けられないので、本来は、己の所有する本件譲渡土地と庚及び辛の所有する本件取得土地を交換するところを、己が本件譲渡土地についての右許可申請をし、Aに譲渡し、庚及び辛が、己に本件取得土地を売却した形式を採ったに過ぎず、本件第一譲渡土地については、埼玉県知事に提出した農地法五条の規定による許可申請書(以下「本件許可申請書」という。)において、譲渡人を己、譲受人をAとし、所有権移転登記の名義人もAとしているのも、右のとおり、農地法五条の許可を早期に受けるために、仲介者のBが、原告らに知らせずに行ったもので、実質とは異なる内容である。

2  信義則違反

(一) 己は、平成四年分の所得税について確定申告をするに先立ち、平成五年二月二二日、原告丙を使者として、右確定申告につき上尾税務署職員である壬に税務相談をし、右壬の指導ないし助言又は説明にしたがって確定申告を行ったにもかかわらず、被告は、右壬の指導等と異なった内容による本件更正処分及び本件賦課決定処分を行っており、右本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきである。

(二) 上尾税務署は、平成五年三月三日以降は、本件交換取引について、法五八条一項の適用がないことを知っていたにもかかわらず、同年二月二二日に平成四年分の確定申告をしている己に対し、右のとおり本件交換取引に法五八条一項の適用がない旨を通知すべき信義則上の義務があるにもかかわらず、それを怠ってした本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきである。

3  本件譲渡土地の譲渡所得金額の不当性

仮に、本件交換取引に法五八条一項が適用されないとしても、本件譲渡土地の譲渡に係る総収入金額は、本件交換取引時の時価である三・三平方メートル当たり金七万円程度で計算すべきであり、総収入金額は、三七六三万三〇三円である。

すなわち、己が本件交換契約により取得した土地の地積は、二三七二平方メートルのうち、北本市に寄付した五九八平方メートルをのぞく、一七七四平方メートルである。そして、一七七四平方メートルにつき、三・三平方メートル当たり七万円の割合にて換算した額が総収入金額となるのである。

したがって、総収入金額を金四五四一万四四〇〇円を前提として認定した被告の前記更正処分は、原告らの所得を過大に認定した違法があり、当然取り消されるべきである。

六  原告らの主張に対する認否及び被告の反論

1  原告らの主張に対する認否

(一) 原告らの主張1のうち、本件譲渡土地と本件取得土地とは、いずれも土地であることから、同種の固定資産であること、本件第一譲渡土地については、本件許可申請書において、譲渡人を己、譲受人をAとし、所有権移転登記の名義人もAとしていることは認め、その余の事実は、否認し、主張は、争う。

(二) 原告らの主張2及び3については、すべて争う。

2  被告の反論

法五八条一項は、居住者が、<1>一年以上有していた固定資産を、<2>他の者が一年以上有していた同種の固定資産(交換のために取得したと認められるものを除く)と交換し、<3>交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合においては、交換により譲渡した資産の譲渡はなかったものとみなす旨を定めているところ、己は、その所有する本件譲渡土地をAに譲渡し、その対価として、Aが庚から取得した本件第一取得土地及び辛から取得した本件第二取得土地を取得したものであり、Aは、本件取得土地を一年以上保有しておらず、かつ、Aは、本件取得土地を本件譲渡土地と交換するために取得しており、本件譲渡土地の譲渡について、法五八条一項の適用がないことは明らかである。

第三証拠

本件記録中、書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  当事者間に争いがない事実及び甲第一号証ないし第三号証、第四号証の各一、二、第五号証、乙第一号証、第二号証、第三号証の各一、二、第四号証ないし第二八号証、第二九号証の各一、二、第三〇号証ないし第三二号証及び証人壬の証言、原告丙の供述並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1  Aは、平成三年一一月一一日、Bに対し、己が所有する本件譲渡土地を含む土地を買い受け、右土地上に工場兼事務所を建築することに関する業務を、委託した(以下「本件委託契約」という。)。

2  平成四年六月七日、己とAは、Aは、己のために、本件譲渡土地と同等の面積の代替地を捜して己に引き渡すこと、己は、本件譲渡土地はいわゆる農業振興地域及び市街化調整区域のため、右代替地を捜す前に、本件譲渡土地について、己名義で農地法五条の規定による許可申請を行い、右許可後には、直接Aに所有権を直接移転すること、右代替地を見つけ次第、己と右代替地地主で、農地法三条による所有権移転の申請を行い、所有権移転登記をする旨を合意(以下「本件合意」という。)し、その旨を記載した誓約書(乙第二号証)を取り交わした。右合意については、本件委託契約に基づき、Bが立会人となった。

3  己は、平成四年六月一〇日、埼玉県知事に対し、本件第一譲渡土地について、譲受人をA、譲渡人を己とする農地法五条の規定による許可申請書(本件許可申請書。乙第三号証の二)を提出し、、埼玉県知事は、平成四年七月二八日付けで、条件付きで農地法五条一項による許可をした(乙第三号証の一)ので、本件第一譲渡土地について、同年九月一二日売買を原因として、同月一八日受付で、己からAに所有権移転登記が経由された(乙第四号証、第五号証)。

また、原告甲、同丙及び乙は、平成六年ころ、Aに対し、本件第二譲渡土地について、本件第一取得土地との交換のため、除外申請及び農地法第五条の許可が済み次第、Aに本件第二譲渡土地の所有権を移転し、右除外申請、農地法上の許可申請及び所有権移転時に印鑑証明書及び住民票をBに渡す旨を約した。

4  庚は、平成四年九月二八日、Aに対し、仲介業者をB、引渡時期及び所有権移転登記申請時期を本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地について農地法五条の許可及び本件第一取得土地につき農地法三条の許可を受けた後として、本件第一取得土地を代金七六〇二万〇〇四五円で売り渡した。己及び庚は、右売買契約後の同年一一月ころ、Bの取締役である癸の指示により、己のAに対する本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地の譲渡に、法五八条一項を適用させるために、本件第一譲渡土地及び本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地と本件第一取得土地とを交換差益無しで交換した旨の不動産売買契約書(土地交換)(乙第七号証及び第九号証)を作成した。

そして、本件第一取得土地につき、平成四年九月二八日の売買を原因として、同月二九日受付で、庚から己に所有権移転登記がされた(乙第一四号証ないし第二一号証)。

5  辛は、平成四年九月二八日、Aに対し、仲介業者をB、引渡時期及び所有権移転登記申請時期を本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地につき農地法五条の許可及び本件第二取得土地につき農地法三条の許可を受けた後として、本件第二取得土地を代金二四四三万六五二七円で売り渡した。己及び辛は、右売買契約後の同年一一月ころに、Bの癸の指示により、己のAに対する本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地の譲渡に、法五八条一項を適用させるために、本件本件第二譲渡土地のうち埼玉県鴻巣市大字上谷字西ヶ崎の土地と本件第二取得土地とを交換差益無しで交換した旨の不動産売買契約書(土地交換)(乙第一〇号証及び第一二号証)を作成した。

そして、本件第二取得土地につき、平成四年九月二八日の売買を原因として、同月三〇日受付で、辛から己に所有権移転登記がされた(乙第二二号証ないし第二六号証)。

6  庚及び辛は、平成五年三月三日、それぞれ本件第一取得土地、本件第二取得土地をAに売却した旨の平成四年度の確定申告をした。

7  己は、上尾税務署から、平成五年一月二九日付けの「買い入れられた不動産についてのお尋ね」と題する書面二通(甲第二号証及び第三号証)の送付を受けた。

8  癸が、平成五年二月二日、上尾税務署に来署し、上尾税務署個人課税第六部門の相続税、贈与税及び所得税のうち譲渡所得関係の担当職員である壬に対し、埼玉県北本市深井地区でBが土地買収に関わり何人かの地主と接触しているところ、右地区で農業を営んでいる者と他の地区で農業を営んでいる者の土地を交換したいと考えているが、右交換の際に税金のかからない方法がどのような場合であるか等の質問をした。それに対し、壬は、癸に、個人の個別事案に関しては回答できない旨の回答をした上、土地の交換に関する法令のうち法五八条に規定する固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例により交換により譲渡した資産の譲渡がなかったものとみなされるには、居住者が、一年以上有していた固定資産を、他の者が一年以上有していた同種の固定資産のうち交換のために取得したと認められるものを除いたものと交換し、右交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供したこと等が必要である旨の説明をした。その際、壬は、癸に対し、BがAから委託を受けた同社の工場兼事務所用の土地の買収について、今後の事務の参考とするため、右買収全体の計画図面(以下「本件買収計画図面」という。)を持参するよう依頼した。

9  原告丙が、平成五年二月二二日、己の代理人として、己の平成四年分の所得税の確定申告のため、上尾税務署に来署し、壬に対し、Aが本件第一譲渡土地と第二譲渡土地(本件譲渡土地)を工場兼事務所用地として取得したいとの話を受けたが、己としては今後も農業を続けたいとの意向を有していたので、本件譲渡土地と原が所有する本件第一取得土地及び辛が所有する本件第二取得土地と交換したものであると主張して、平成五年一月二九日付けの「買い入れられた不動産についてのお尋ね」と題する書面二通(甲第二号証及び第三号証)、不動産売買契約書(土地交換)(乙第八号証)、不動産交換契約書(土地)(乙第一一号証)及び本件第一譲渡土地の登記簿謄本(以下「本件第一譲渡土地登記簿謄本」という。乙第四号証及び第五号証)等を提出した。これに対し、壬は、右本件第一譲渡土地の登記簿の甲区順位番号壱事項欄に、所有者己と記載され、同弐事項欄に、平成四年九月一八日受付、原因平成四年九月一二日売買、所有者Aと記載されていることから、本件譲渡土地の譲渡は売買であり、法五八条の規定の適用はないと判断し、その旨を同丙に説明した。しかし、同丙は、右壬の説明に納得せず、本件譲渡土地の譲渡は、本件取得土地との交換であり、法五八条に該当する交換として己の確定申告書を提出する旨を主張した。そこで、壬は、確定申告期間中で納税相談者が多数来署していること、同丙を説得したとしても本件譲渡土地の譲渡が売買に該当することを了承しないと思われること及び申告納税制度では自主申告であることから、同丙の主張のとおり、本件譲渡土地の譲渡が、本件取得土地との交換に該当し、法五八条の適用があるとして、己の確定申告書の作成を補助し、所定金額欄の記載等を行った。その際、壬は、同丙に対し、本件譲渡土地の譲渡は、交換には該当しないが、自主申告であるから、同丙の主張のとおり、本件譲渡土地の譲渡が交換に該当するとして、計算し、己の確定申告書(甲第四号証の一及び二)を作成するが、後で修正申告をしてもらうことになる旨を説明した。そして、壬は、右経緯を明らかにするため、同丙に「土地の交換について」と題するもので、作成名義人を己として、己が本件譲渡土地一八九六平方メートルと庚及び辛が所有する本件取得土地二三七二平方メートルとを交換したこと、交換であるため値段は定めていないこと、本件譲渡土地の周辺の土地の価格は坪当たり一四万円であること、交換した土地の面積の差があるが、己が農業を継続する意向があるので、その旨了承していること、右交換について税務署でよろしく取り計われるよう依頼することを記載した書面(乙第二八号証。以下「本件丙作成書面」という。)の作成を依頼し、同丙は、右書面を作成し、右確定申告書とともに、壬に提出した。さらに、壬は、本件譲渡土地の譲渡が交換に該当するか否かについて確認するため、同丙に対して、本件譲渡土地に係る農地法上の本件許可申請書及び本件第二譲渡土地の登記簿謄本も提出するように依頼した。

10  癸が、平成五年三月三日、上尾税務署に来署し、壬に対し、本件第一譲渡土地についての農地法五条の規定による本件許可申請書及び指令農政第5-19埼玉県知事による農地転用許可証の写し(乙第三号証の一及び二)を提示した。壬は、癸に対し、本件譲渡土地の譲渡は、法五八条が適用される交換には当たらないと説明したが、癸は、右本件譲渡土地の譲渡は、交換に該当する旨を主張するだけであった。壬は、癸に対し、右書類に加え、本件第二譲渡土地の登記簿謄本及び右土地に関する農地法による本件許可申請書及び農地転用の許可通知も提出するよう依頼した。

癸は、右翌日、上尾税務署に、前日に壬に提示した本件第一譲渡土地についての農地法五条の規定による本件許可申請書及び指令農政第5―19埼玉県知事による農地転用許可証の写し(乙第三号証の一及び二)並びに第二譲渡土地の登記簿謄本(乙第二九号証の一及び二)を提出した。

癸は、同月一六日、上尾税務署に来署し、壬に対し、本件買収計画図面を示し、買収の目的は、埼玉県北本市深井地区にAの工場兼事務所を建設するためであり、右地区の土地買収について、BはAから委託され、右土地買収を実施していること、右買収が三期にわたること、右地区の関係地主が一〇名以上いること、本件譲渡土地の譲渡は、本件取得土地と交換したもので、現金の授受はない旨説明し、本件譲渡土地の譲渡について、税務上の交換の特例を認めて欲しい旨の申出があった。それに対し、壬は、癸に対し、本件譲渡土地の譲渡が法五八条の交換に該当するとは認められない旨を説明した。

11  被告は、己の平成四年分の所得税の確定申告に対し、平成八年二月二八日付けで、己の所得税につき、分離長期譲渡所得の金額七〇四五万六九一〇円、納付すべき税額二一一七万二五〇〇円とする本件更正処分及び過少申告加算税の額三一五万〇五〇〇円とする本件賦課決定処分を行い、右己の国税の納付義務につき、原告甲は、一〇五八万六二〇〇円、同丙及び乙は、それぞれ五二九万三一〇〇円を承継したとして、その旨を同甲、同丙及び乙に通知した。

同甲、同丙及び乙は、これに対し、平成八年四月二五日、被告に対し、本件更正処分の異議申立てをしたところ、被告は、同年七月二三日付けで本件更正処分及び本件賦課決定処分の一部を取り消し(分離長期譲渡所得の金額四二一四万三六八〇円、納付すべき税額一二六七万八六〇〇円、過少申告加算税一八七万五五〇〇円)、己の国税の納付義務につき、同甲は、六三三万九三〇〇円、同丙及び乙は、それぞれ三一六万九六〇〇円を承継する旨の異議決定をした。

さらに、同甲、同丙及び乙は、本件異議決定を経た後の原処分を不服とし、平成八年八月二三日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたところ、右所長は、平成一〇年一月二〇日付けで審査請求を棄却する裁決をした。

二  法五八条一項の適用について

原告らは、己は、庚が所有する本件第一取得土地及び辛が所有する本件第二取得土地を、己所有の本件譲渡土地との交換によって取得したのであるから、右各土地の取引は、法五八条一項の定めるところにより、固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例(本件交換特例)の適用が認められるべきであると主張する。

しかしながら、次のとおり、己は、本件譲渡土地をAに対して譲渡し、Aが庚及び辛から取得した本件取得土地とを交換したというべきであるから、己が本件交換特例を受ける立場にないから、これを前提とする原告らの右主張は、理由がない。

1  前記認定した事実によると、Aは、平成三年一一月一一日、工場兼事務所を建築することを企図して、本件譲渡土地を含む一体の土地を買い受けることとし、その事務をBに委託したこと、そこで、Aは、平成四年六月七日、己との間で、本件合意に関する誓約書(乙第二号証)を取り交わし、己は、本件合意に基づいて、本件第一譲渡土地について、同年六月一〇日、埼玉県知事に対し、譲受人をA、譲渡人を己とする農地法五条の規定による本件許可申請書を提出し、同知事は、同年七月二八日、条件付きで右申請を許可したこと、己は、Aのために、同年九月一八日、原因を同月一二日売買とする所有権移転登記を了したこと、原告甲、同丙及び乙は、Aに対し、本件第二譲渡土地を「北本市深井外七筆分との交換のため、除外申請及び農地法五条の許可が済み次第所有権を移転する。」旨を記載した平成六年月日付け(月日は白紙)の念書(乙第六号証)を交付したこと、庚及び辛は、平成四年九月二八日、本件第一及び第二取得土地をAに対してそれぞれ売り渡したこと、己は、同月二九日、本件第一取得土地について、原因を同月二八日売買とする所有権移転登記を了し、また、同月三〇日、本件第二取得土地について、原因を同月二八日売買とする所有権移転登記を了したことが認められる。

右事実に照らすと、Aは、工場兼事務所の建築用地として、本件譲渡土地を含む一体の土地の取得を企図したが、己から、本件譲渡土地の譲渡に当たっては、本件譲渡土地と同等の面積を有する代替土地の取得を求めたことから、庚及び辛から本件取得土地を取得した上、平成四年九月二八日、これを己に譲渡したものと認められる。そうすると、己は、本件譲渡土地を、Aに譲渡し、その対価として、Aが庚及び辛から取得した本件取得土地を交換により取得したというべきである。

この点、原告らは、己は、庚及び辛との間で、本件譲渡土地と本件取得土地とを交換したと主張し、右主張に沿う乙第七及び第九、第一〇号証及び第一二号証が存在するが、Bは、Aから、Aが本件譲渡土地を含む一体の土地に工場兼事務所を建築するために、本件譲渡土地を含む一体の土地を取得するための事務の委任を受け、己は、Aに対して本件譲渡土地を譲渡したものであり、右取得の経緯の中で、Bの癸が、己のために、本件譲渡土地の譲渡が法五八条が適用されるように指示したことに基づいて、右乙各号証が作成されたものであるから、これらの記載内容に沿った事実を認めることは困難であるといわざるを得ないから、これらによって、原告らの主張を認めることはできない。

2  ところで、法五八条一項が適用されるには、居住者が、一年以上有していた固定資産を、他の者が一年以上有していた同種の固定資産(交換のために取得したと認められるものを除く。)と交換し、交換により取得した資産を交換により譲渡した資産の譲渡した資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合である。

本件は、前記判示のとおり、己は、その所有にかかる本件譲渡土地とAが取得した本件取得土地とを交換したが、Aは、己が本件譲渡土地を譲渡するについて、本件譲渡土地と同面積の土地を求めたことから、本件譲渡土地と交換するために本件取得土地を平成四年九月二八日に取得し、本件譲渡土地を取得する対価として、本件第一取得土地については、同月二九日、原因を同月二八日売買として、庚から中間省略により直接己に対して所有権移転登記手続を了し、本件第二取得土地についても、同月三〇日、原因を二八日売買とする所有権移転登記手続を了したのであるから、Aは、己と本件譲渡土地と本件取得土地とを交換するまでの間、本件取得土地を一年以上所有していないし、本件取得土地を本件譲渡土地と交換する目的で取得したのであるから、本件譲渡土地と本件取得土地との交換取引については、法五八条一項の定めるところの本件交換特例の適用される余地のないことは明らかであるといわざるを得ない。

三  信義則違反について

原告らは、己は、平成四年分の所得税について確定申告をするに先立つ平成五年二月二二日、右確定申告につき、原告丙が上尾税務署職員壬に税務相談をし、右壬の指導ないし助言又は説明にしたがって確定申告を行ったにもかかわらず、被告は、右壬の指導等と異なった内容による本件更正処分及び本件賦課決定処分を行っており、右本件更正処分及び本件賦課決定処分は信義則に反し、違法なものであって、取り消されるべきであると主張する。

1  前記認定事実のとおり、壬は、平成五年二月二二日、己の代理人として来署した原告丙から、Aから本件譲渡土地を工場兼事務所用地として取得したいとの話があったが、己は今後とも農業を続けたいとの意向を持っていたため、本件譲渡土地と庚及び辛が所有する本件第一及び第二取得土地を交換したもので、売買ではないという旨の説明を受けたが、原告丙が提出した本件第一譲渡土地の登記簿謄本には原因を平成四年九月一二日売買とするAへの所有権移転登記が経由されていたことから、己の土地譲渡は交換ではなく売買と認められるので、本件交換特例が適用される事実とは認め難い旨を説明したこと、しかし、同丙は、これに納得せず、右土地の譲渡は、法五八条一項に該当するとして、その旨の確定申告を行うと強く主張したこと、壬は、同丙を説得することは困難であるとして、同丙に対し、交換に該当しないと思われるが、自主申告なので、同丙の言うとおり土地の交換に該当するとして計算するが、後に、修正申告をしてもらうことになると思われると説明した上で、同丙の主張するとおりの確定申告書の作成をし、同丙に対し、右土地の譲渡の経緯について記載した文書の作成を求めたこと、壬は、同年三月三日、原告丙から本件第一譲渡土地に関する本件許可申請書及び農地転用許可の通知(乙第三号証の一及び二)の提出を受けたが、右書類には譲渡人己、譲受人Aとする記載があったため、同丙に対し、右土地の譲渡は交換に該当しないとの説明をしたが、同丙は、壬の右説明に納得しなかったこと、Bの癸は、同月一六日、Aの工場兼事務所の計画図面を持参し、壬に対し、Aの本件譲渡土地の取得の経緯等について説明し、本件譲渡土地は本件取得土地と交換したもので、現金の授受はないので、税務上の交換の特例を適用してほしい旨を申し出たが、壬は、Bの右説明及びこれまでに提出を受けた関係書類等を検討しても、本件は法五八条一項に該当する土地の交換と認めることはできない旨を説明したというのであるから、壬は、一貫して本件譲渡土地と本件取得土地の交換が、法五八条一項に定める本件交換特例が適用される事案であると認めることは困難であるとしていたのであり、壬が誤った教示をしたという経緯をうかがうことはできないところであり、かえって、同丙が、壬の右説明に納得せず、本件交換特例が適用されるとして確定申告をしたいと固執していたもので、壬は、確定申告が自主申告であることから、同丙の主張に沿った計算をした上で、後に修正申告をしてもらうことがあることを示唆した上で、確定申告書を作成したと認められるから、己が、壬に対する税務相談の結果に基づき、壬の指導ないし助言又は説明に従って本件確定申告をしたと認めることはできない。

したがって、己が、壬の前記教示を信頼し、これに基づいて本件確定申告を行ったことを前提とする原告らの主張は理由がない。

この点、同丙は、同丙が、平成五年二月二二日、上尾税務署で納税相談を受けた際、同丙は、本件第一譲渡土地登記簿謄本を持参しなかったし、壬は、本件譲渡土地の譲渡には、本件交換特例が適用される旨を説明し、所得税〇円とする己の平成四年分の所得税の確定申告書をそのまま受理した旨原告らの前記主張に沿う供述等をするが、右供述等は、前記認定の事実に照らすと、たやすく採用できないし、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠もない。

2  また、原告らは、上尾税務署は、平成五年三月三日以降は、本件交換取引について、法五八条一項の適用がないことを知っていたにもかかわらず、己に対し、本件交換取引に法五八条一項の適用がない旨を通知すべき信義則上の義務があるにもかかわらず、右通知をすることなく行った本件更正処分及び本件賦課決定処分は、信義則に反し、違法なものであるから、取り消されるべきであると主張するが、前記認定のとおり、壬は、同年二月二二日の税務相談の際、原告丙に対し、本件譲渡土地の譲渡及び本件取得土地の取得につき法五八条一項の適用がない旨を説明し、同丙の意向に従った確定申告書を作成するが、今後修正申告をしてもらうことになる旨を告げているのであるから、壬は、己の本件譲渡土地と本件取得土地との交換が、法五八条一項が適用される事例ではないと判断し、その旨を説明し、それに従った確定申告をすることを示唆していたと認められる。したがって、被告が、本件確定申告に対し、本件更正処分及び本件賦課決定処分をしたことが、信義則に違反する違法な処分であるとは認めることはできず、原告らの右主張は、理由がない。

四  本件譲渡土地の譲渡所得金額の不当性

乙第二七号証によると、株式会社Cが、被告からの信頼に基づいて行った本件取得土地の鑑定評価によると、本件取得土地の平成四年九月二五日時点における正常価格は、一平方メートル当たり二万五六〇〇円であると評価したことが認められ(以下「本件鑑定」という。)、右正常価格の算出の手法及び算定方法もいずれも合理的で相当なものであると認められるから、被告が、己が本件取得土地を交換により取得した右同日時点における本件取得土地の時価を一平方メートル当たり二万五六〇〇円とし、これに本件取得土地の一部の面積である一七七四平方メートルを乗じた価格を基礎として本件更正処分をしたことは、相当である。この点、原告らは、本件譲渡土地の譲渡に係る総収入金額は、本件交換取引時の時価である三・三平方メートル当たり七万円程度で計算すべきであると主張するが、右価格で取引がされたとしても、これが直ちに課税に際しての正常価格であると認めることは困難であり、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告らの右主張は、採用できない。

五  己の農業所得等の総所得が一六三万七五四九円であること(被告の主張1(一)の事実)は当事者間に争いがなく、前記判示のとおり、本件交換取引により己が取得した本件取得土地の価格の算定に当たっては、本件交換取引には法五八条一項の定める本件交換特例の適用が認められず、本件取得土地を取得した平成四年九月二八日時点における右土地の正常価格は一平方メートル当たり二万五六〇〇円であるから、分離長期譲渡所得のうちの収入金額である本件取得土地一部の土地の価額は四五四一万四四〇〇円となる。したがって、己の納付すべき税額は、右総所得額から所得控除分一二七万九九一〇円を控除し、法八九条一項に規定する税率を適用して算出した三万五七〇〇円及び右本件取得土地の一部の土地の価額に措置法三一条を適用して算出した一二六四万二九〇〇円の合計一二六七万八六〇〇円となる。

己は平成六年五月一日に死亡し、原告甲、同丙及び乙は、己が相続開始前三年以内に取得した本件取得土地を相続により取得したのであるから、通則法五条により、己が納付すべき一二六七万八六〇〇円の納付義務を承継したところ、相続人間において相続分の指定がないので、法定相続分に従い、原告甲が納付すべき税額は六三三万九〇〇〇円、原告丙及び乙が納付すべき税額は各三一六万九六〇〇円(通則法一一九条により一〇〇円未満を切り捨て)となる。

したがって、原告甲、同丙及び乙が右各納税額を納付すべきであるとした本件更正処分は適法であり、また、本件賦課決定処分は、本件更正処分によって新たに納付すべき税額に基づき、当時施行の通則法に従って算出された過少申告加算税を賦課するものであるから、本件賦課決定処分も適法である。

六  よって、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 都築民枝 裁判官 蛭川明彦 裁判長裁判官星野雅紀は、転補につき、署名押印することができない。裁判官 都築民枝)

物件目録一

一 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 三四七平方メートル

二 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 五一九平方メートル

物件目録二

一 所在 鴻巣市大字上谷西ヶ崎

地番

地目 畑

地積 三九六平方メートル

二 所在 鴻巣市大字上谷西ヶ崎

地番

地目 田

地積 六三四平方メートル

物件目録三

一 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 一〇九平方メートル

二 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 四一三平方メートル

三 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 二六四平方メートル

四 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 五九平方メートル

五 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 二三平方メートル

六 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 一〇五平方メートル

七 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 三四〇平方メートル

八 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 四八二平方メートル

物件目録四

一 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 一一九平方メートル

二 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 六六平方メートル

三 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 二〇二平方メートル

四 所在 北本市深井

地番

地目 畑

地積 九五平方メートル

五 所在 北本市深井

地番

地目 田

地積 九五平方メートル

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